I LOVE FOOTBALL

アメリカンフットボールというスポーツの話です。
おとうさんがよく パソコンで観ているスポーツだね。
Youtubeで ゆうりくんはゲーム実況が観たいのに、アメリカンフットボールの動画もいっぱい表示されるので、邪魔でイヤだったね。
でも、おとうさんは アメリカンフットボールが本当に好きなんです。

『これが大好き』と思えるものは、おとうさんも50年ぐらい生きてきたけど、そんなに多くあるものではありません。
ゆうりくんも、『これが大好き』と思えるものを 見つけてほしいです。

体が大きいオジサンたちがぶつかり合うヘンテコなスポーツを、おとうさんはどうしてあんなに好きだったのか、ここに書いておくので、大きくなった時に読んでもらえるとうれしいです。

おとうさんは小学生の時に『アメリカンフットボールが一番スゴいスポーツだ!』と決めたんだ。

おとうさんにも小学生のときがありました。
おとうさんが最初に好きになったスポーツは野球でした。最初は巨人ジャイアンツを応援していたけど、全部カタカナのチーム名のほうがかっこよかったので、応援するチームをヤクルト・スワローズに変えました。全部カタカナのチームは もうひとつ ロッテ・オリオンズというチームがあったのだけれど、そのチームを前から応援している友達がいたので、ヤクルトを応援することにしたのでした。
おとうさんはいつも「ほかの人とは違うもの」を応援します。ほかの人が注目していないものに 自分だけが注目しているような状態を心地よいと感じます。それは「競争しているようで競争しない」絶妙な立ち位置です。
ゆうりくんを見ていると、競争を避けながらも自分が一番になれる場所を 目ざとく見つけているように感じます。
そういう場所は ゆうりくんのオリジナルの場所。そう、"Origin"だね。とても大切なものです。

さて、おとうさんが書きたいのは、野球のことではなくて、アメリカンフットボールのことでした。
アメリカンフットボールというスポーツは、世界中で流行っているスポーツではなくて、アメリカだけで人気があるスポーツです。そこが良かったんだね、おとうさんは ほかの人が注目していないものが好きだから。

小学生とか中学生の男の子というのは「最強」が好きです。
おとうさんも「最強のスポーツは何だろう?」と小学生の時に考えました。
スポーツには「これをやってはいけない」という細かいルールがあって、「なんだか 面倒くさいよな」と思ってました。
バスケットボールには、「三歩以上ボールを持って歩いてはいけない」「ぶつかっちゃダメ」というルールがあります。
サッカーにも「手でボールをさわっちゃダメ」「ぶつかっちゃダメ」というルールがあります。
どちらもゴールにボールを入れるのが目標なのに、一番手っ取り早い方法を禁止するルールがあるから、不思議でした。「ぶつかっちゃダメ」というのは、そんなのスポーツと呼べないんじゃないの?と思っていました。

「おおいにぶつかってよし!」というスポーツは、相撲とラグビーとアメリカンフットボールでした。
でも、ラグビーには「前に投げちゃダメ」というルールがあって、これもまた向こう側までボールを運ぶスポーツなのに、いちばん手っ取り早い方法を禁止しています。
どのスポーツも「それをやっちゃうとグチャグチャになっちゃうからやめよう」と考えて、ボールを手に持って運ぶことや、ぶつかること、ボールを前に投げることなどを禁止しました。
だけど、アメリカンフットボールは そのどれも禁止しなかった、諦めなかった。ボールを手でさわっていいし、手に持って走っていいし、前に向かって投げてもいい。そして、それをさせないためにぶつかったっていい。その全部をやってもグチャグチャにならないスポーツって 最強なんじゃないの? と小学生のときのおとうさんは思ったのでした。

"目標があったら、それに対して素直に一番効果的な手段を取る"

おとうさんは、そういうことが何だか すごく大切なことなんじゃないか、と子供のころから考えていたのだと思います。
世の中には、「それをやるとグチャグチャになっちゃう」ことを気にして、一番効果的なことをやめてしまったり、禁止してしまったりすることが、案外多いものです。でも本当は、やっぱり一番効果的なことを一番大切にしたほうがいいです。そして そのうえで、グチャグチャになっちゃわないようにするには どうしたらよいのか、よく考えて気をつけるようにする という順番がいいのだ、それが最強なんだ、と思っています。

おとうさんにもお母さんがいました。おとうさんのお母さんはラジオが好きでした。
NHKのAMラジオのアナウンサーが『第18回スーパーボウルは、ロサンゼルス・レイダースがワシントン・レッドスキンズを38対9の大差で破りました』みたいなニュースを読み上げるのを聞いて、遠い国アメリカに想いをはせていました。


目標と計画のはなし

アメリカンフットボールは「ボールを向こう側のラインまで運ぶ」というスポーツです。
60分間(実際の試合時間は3時間ぐらいになる)プレーしたあとに、どっちのチームがより多くボールを運べたかを得点にして、より得点が多いチームが勝ちます。
ボールを運ぶときの基本的なルールがあって、「4回(実質的には3回)の攻撃で10ヤード以上進む」必要があります。
これを目標として考えてみると、最終的な目標は「相手チームより多くの得点を60分後に挙げていること」です。
中期目標は「ボールを向こう側のラインまで運ぶこと」で、短期目標は「10ヤード以上進むこと」です。

おとうさんはもう30年近く会社で働いてきました。会社の仕事では大抵「じゃあ最初に目標を立てよう」となります。
そして「目標は数値で表さないとダメだよ、そうしないと みんなが同じ強い気持ちで取り組めないんだ」と言われます。
おとうさんはね、それはちょっと違うな、と思うんだ。

アメリカンフットボールにおける目標について、考えてみよう。
「相手チームより多くの得点を60分後に挙げていること」 「ボールを向こう側のラインまで運ぶこと」 「10ヤード以上 進むこと」 の3つの目標のうち、数値目標は「10ヤード以上 進むこと」 だけだね。
「相手チームより多くの得点を60分後に挙げていること」 という最終目標に対して、「じゃあ30点取ろうぜ」というような数値目標を決めることに実は意味がない。自分達が目標通り30点とったとしても、相手チームに31点取られたら負けてしまうし、相手チームに10点しか取られなければ、30点もとる必要はないのです。30点という数値目標には意味がなく、「30点取るぞ」と何度念じてみても、具体的に何をすればいいのか見えてきません。
数値目標で表せるのは 中期目標や短期目標です。最終目標というのは、数値で表せるようなものではなく、「こんなふうになったらいいね」というぼんやりしたイメージでよいのです。それを数値で表そうとした途端に、もともと根拠のない数字が自分達の目標になりかわってしまって、達成できなければ 誰が足を引っ張ったのか犯人探しをし、達成できたら それ以上に高めることをやめてしまいがちです。

ゆうりくんが勉強するときも、テストで100点を取ることを最終目標だと考えるより、「かっこいい人になりたい」と思って勉強したほうが良いと思うよ。

最終目標は数値ではなく、方向性やイメージで持つことが大事です。
誰かに目標を与えられるのではなく、自分がどうありたいのか、自分で考えて決めましょう。
その方向に向かって 速く強く、そしてたのしく進むことを心がけて がんばりましょう。

さて、もう少し数値目標の話をしましょう。数値目標なんて一切必要ないのか、というと そんなことはありません。
アメリカンフットボールでは、あと少しで10ヤードに届く というとき、選手は最後の力を振り絞ります。
それができて、実際に10ヤード先まで到達するような選手が一流の選手です。観ていて応援したくなります。
数値目標には、最後の力を振り絞ろうとがんばらせる効果があるのですね。

だけど、だけどです。
もしも ゆうりくんがリーダーなら、仲間の力を振り絞らせようとして、無理な数値目標を立てるのはやめましょう。
リーダーであるならば、もっとラクに10ヤードを超えられるような、いい戦略を考えないとダメです。
その戦略をみんなが信じていて、だけど予定通りにうまくいかなくてギリギリになってしまったときに、仲間が力を振り絞って 少し無理してでも達成するのであって、最初から仲間が無理をすることをアテにするような戦略や数値目標は、それ自体が間違っています。

そして、もうひとつ とても大切なこと。
「10ヤード以上進む」というのは難しいことであることをきちんと認識する、ということです。
10ヤード進めなかったとき、いちいち怒っていては強いチームになりません。
プロのアメリカンフットボールチームでも、弱いチームほど怒りを露わにし、どんどんプレーが乱れていきます。
3回目の攻撃で10ヤード進めなかったら、4回目の攻撃ではフィールドゴールかパントを蹴る、それが鉄則です。

今年はコロナウィルスが原因の病気が流行りました。
こんなに大変な病気に私たちが直面するのは初めてのことです。だから、それに対処するのはすごく難しい。
それなのに「政府の対応が後手後手だ」とか、「方針をコロコロ変えるな」とか、文句を言う人が多くいます。
でもね、難しい局面では、後手後手やコロコロが一番良いのかもしれません。
状況を見守って 予想してたのと違ってしまったら、やりかたを変えるしかないでしょう。

状態が悪い時には 無理をしたり、落胆したり、怒ったりするのを じっと我慢するのです。
もともと難しいことにチャレンジしていたのだから 「そういう時もあるさ」と思い、仲間にもそのように声をかけます。
そして、深呼吸して落ち着いて、自分達に足りなかったものは何だったかを分析して、改善すれば道は開けます。

10ヤード進むことができたら、そのことをしっかりと誇りに思い、よりコンスタントに10ヤードゲインを重ねられるようにするには どうしたらよいのか、みんなで考え、行動しつづけることが さらに良い結果をうみます。
強いチームというのは、そうやってつくられるのだと思います。

だからね、「数値目標に縛られない」ことは大切です。数値は目安に過ぎません。それより きちんとまわりに気を配って、みんなで勢いをつかむことを大切にしていれば、ゆうりくんもきっと良い成果を挙げることができます。


トム・ブレイディ

おとうさんが一番好きな選手が トム・ブレイディです。
チームの司令塔であるクォーターバックというポジションで大活躍している選手です。
この人は 本当にすごい人でね、20年間に渡って活躍し続けていて、今年 7回目の優勝を成し遂げました。
"7回目の優勝" というのがどれぐらいスゴイことなのか、というとね、どのチームよりも ブレイディのほうが優勝回数が多いんだよ。一番優勝回数が多いチームは ニューイングランド・ペイトリオッツとピッツバーグ・スティーラーズの6回でね、ニューイングランド・ペイトリオッツの6回の優勝は全部 ブレイディがチームを率いてやり遂げたんだ。ブレイディが今年、タンパベイ・バッカニアーズというチームに移って、移籍後最初の年にまたチームを優勝させちゃったので、ブレイディひとりの優勝回数が一番多くなったというわけ。

おとうさんも20年間、ゆうりくんがうまれる前からずっと ブレイディを応援し続けています。すごく幸せな20年です。
ブレイディは今ではスーパースターだけど、おとうさんが応援し始めた20年前は、全然有名ではない ひとりの若いクォーターバックでした。大学生の優秀な選手をプロのチームが採用するドラフトでは、ブレイディが優れた選手だと思われていなくて、199番目でやっとニューイングランド・ペイトリオッツに採用された というのが、ブレイディが全然注目されていなかったことを表しています。

ゆうりくんね、知っておいてほしいのだけれど、世の中に超人的な能力を持つスーパーマンはいないんだよ。
歴史上の偉人も、有名な会社の社長さんも、みんな人間です。ゆうりくんと同じ。
ブレイディは非常に優れた選手だし、大変な努力を重ねてきたけれど、今でも彼はスーパーマンではなく、人間です。
走るのは速くないし、パスを投げるのが上手な選手はほかにもいっぱいいます。

ブレイディのチームメイトだって、スーパーマンではないし、スター選手がそろっているわけでもないのです。
スター選手のことを"プロボウラー"というのだけど、チームには毎年 ブレイディを含めても2~3人ぐらいしかいない。
毎年 多くのチームメイトが入れ替わって、ブレイディは新しい仲間と一緒に試合にのぞみます。
それなのに、5~6人のプロボウラーが所属するようなチームに勝っちゃうんだよ。 
なぜって、ブレイディと一緒にいると、普通の選手が精一杯の力を発揮して、すごいプレーができてしまうから。
スーパーマンではないブレイディが、次の試合のことを真剣に考えて 一生懸命に準備して頑張っているのを見ると、他の選手も 「スーパーマンになる必要はないんだ、自分ができることを精一杯やろう」と思うんだろうね。

もうひとつ、ブレイディがいるとチームが勝てる理由は、相手チームが考えていることを読み取ることが上手だから。
相手チームの不意をつく作戦をチームメイトに伝えて実行させるから、チームメイトは相手チームにあまり邪魔されることなくプレーができるのです。
邪魔されないで自分のプレーに専念できたら、良い結果がでます。
試合を観ている観客は「なんてすごいプレーをするんだろう!素晴らしい選手だ!」と拍手喝采をするから、その選手は「よし、いけるぞ!」とどんどん調子を上げていきます。
だから、ブレイディのいるチームは試合の前半以上に後半が強く、シーズンの最初より 優勝チームを決めるプレイオフのほうが強いのです。 

ゆうりくん、覚えておいてね。
普通の人間が、スゴイことをやり遂げられるのは、邪魔を取り除いた良い状態が得られたときです。
「苦労は買ってでもせよ」と言われるし、それが正しいことも多いのだけれど、それは「クラッチ」と言ってね、プレッシャーのかかる難しい局面に直面すると そのあと力を一気に発散できることが多いのです。
力を一気に発散させてスゴイことをやれるのは「クラッチ」の局面ではなく、「フロー」の局面です。
フローは クラッチのあとにくる局面で、クラッチとは逆にプレッシャーから解放された状態です。
ゆうりくんも 難しい局面に立った時、「これを乗り越えたら 大チャンスが来るぞ」と思って、グッと踏ん張るのです。
だけど踏ん張るだけじゃダメでね、難しい局面に より立ち向かいやすくする作戦を考えることが大切。
気がかりなことにしっかり対処して 状況を整えられたとき、すごく集中していつもより大きな力を発揮できます。
そういうことを繰り返して、クラッチをフローに切り替えるのが上手になっていくと、自分だけでなく 仲間のクラッチをフローに切り替えることができる人になるのではないかな、と思います。
ブレイディは、たぶん、それができているのだと思います。

おとうさんもね、ブレイディのようになりたいのです。
物事がうまく進まないとき、「自分に超能力があればいいのに」とか、「リーダーがスーパーマンじゃないからダメなんだ、どこかにスーパーマンいないかな」とか 考えちゃいがちだけど、そんなことを望んでもしょうがない。
近くにいてくれる仲間と力を合わせて頑張るしかないし、本当に力を合わせたら、ものすごいことができる。
自分がスーパーマンになってひとりで頑張る必要はなくて、仲間のすごいところに気づいて それを発揮しやすい環境を整えて、しっかり頼ることがとても大切だと思うのです。
みんなで一緒にどんどん調子をあげていく。それは とてもたのしくて、それこそがスゴイことをやり遂げる近道です。

おとうさんは それができる人になりたいです。そして、ゆうりくんにも そうなってほしいな と願っています。


「ブレイディはスーパーマンじゃない」ということがわかるお話。

おとうさんは、デトロイトまでブレイディを応援しに行ったんだ。
負けちゃったけどね。("WATCH ON YOUTUBE"をクリックして観てね)